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【No.1071】Ebony and Ivory…9月13日


1930年代から1990年代の米国の黒人人権史の流れとともに、音楽好きのEbony and Ivoryの家族のたどってきた道のりが書かれている小説である、平たく説明してしまうと……。
Ebony and Ivory――年配の人たちは耳にしたことがあろうが、ヒートルズ、ウィングスを経たポール・マッカートニーと黒人盲目天才ミュージシャンのスティービー・ワンダーのデュエット曲で、ピアノの「黒鍵」と「白鍵」にたとえ、人種間のいさかいをなくし共に響き合おうというメッセージを伝えた作品である。
しかし、黒鍵がなくても弾ける曲は沢山あるわけで、しょせん白鍵が中心なのかしら、黒鍵は添え物なのかしらと、理屈のひとつもごねたくなる。ピアノの鍵盤は、現在でもまだ、米国社会の人種の構図を的確に表しているのかもしれない。
オバマ氏も半分は白人だというのに、「黒人初の」という冠がついてしまう。正確には、「白人以外初の」ということなのに……。出生届やパスポートに押されるスタンプがBlackになってしまうので、黒人という解釈になる。
この小説の中心に据えられた三人きょうだいたちも、黒白の混血で、白の方はドイツ出身のユダヤ人という設定である。ユダヤ人は、白のなかでも特別な存在である。きょうだいは法的には「黒」だが、黒人からは特異な眼で見られるので、大きな葛藤を抱えて生きる。
ポールとスティービーのデュエットであるが、どうせならデュオでなく、坂本龍一でも入れておけば良かったのだが、イエローも黒鍵に含められて、その他大勢ということでかすんでいる。

この曲には関係ないが、この曲がヒットした1982年の10年後に米国を揺るがしたロサンゼルス暴動が起きた。『われらが歌う時』にも重要な事件として出てくる。
暴動の直接の引き金はロドニー・キング事件という、ロス市警が民間人(黒人)に働いた狼藉で、それが無罪判決となったことなのだが、ネットで調べるとあちこちに出ているように、黒人対白人という対決でなく、ロスの黒人経済がコリアンにずっと脅かされていて、黒人の多くが仕事を失った、黒人差別をコリアンが行っていたという背景があったらしい。
でも、その辺、パワーズはイエローを捨象してこの本全体をまとめている。西欧人が見向かなくなったクラシック音楽というものを、日本人と韓国人が守ってくれるから大丈夫というような記述はあった。なるほど、有名なコンクールで両国の若手がよく入賞したり、指揮者やピアニスト、バイオリニストはじめ、音楽家を多く輩出しているので、西欧の人びとからはそのように捉えられているのかと興味深い。

周辺のことばかり書いてしまった。
「人種(社会問題)」「音楽(芸術)」「時間(物理的考察の対象)」の限界と可能性を、パワーズらしい膨大な知識ストックで展開していく小説なのだけれど、人の感情を揺さぶる小説のうねりが、その知識ストックの背後に隠れていない。デビュー作『舞踏会へ向かう三人の農夫』は、読んでいるこちらのせいもあろうが、知識ストックに押しつぶされてしまうような感じがあって、小説のうねりに突き動かされないまま終わってしまった感じが残った。
けれども、今回のこの本は「うねり」がすごい。
読んで泣いた本っていくつもあるけれども、これは終盤の数ページにわたって泣き続けながら読んでいた。
パワーズではなく、他の人の本を読んだみたいに感じた。

「人種」「音楽」「時間」――分析すれば主題はこれらで、この分析については新潮社サイトにもアップされている若島正氏の書評があるのだけれど、読み終わった私が感じ取ったのは「福音」である。
「福音」、つまりgospelをキリスト教だけでなく広義に解釈したい。それは「希望の響き」とでも言えるもので、これを軸に書評投稿しようとして、今、書きあぐねている。
この「福音」が読み取れたから、余計に「新生パワーズ?」と思えた。それをはっきり打ち出したところが、何かとてもアメリカ的に感じた。
「イエローはどうした」とケチはつけたくなっても、人種問題総体を扱おうとしたわけではない。それはテーマに収斂されているわけである。
『われらが歌う時』は傑作だと思う。
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中村びわ

Author:中村びわ
2004年から2011年まで書いてきた
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