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【No.1060】遠く故郷を離れて…8月12日


重い内容の本ばかり貼りつけた私が、実はこれから「藤原紀香とどっちが豪華ボディなのか」という米倉涼子ちゃんが何を着るかというのが楽しみで「モンスターペアレント」という連続ドラマを見るところだというのも情けない話なのだが、いろいろなことに興味が湧くのは、もう仕方ないことなんですね。

ナチス迫害の犠牲者の手記『キンダートランスポートの少女』(未来社)を昨日読了。
この1冊のおかげで、頭のなかのあちこちに散らばっていた知識や気にかけていたことが、カチリカチリとパズル片のように組み合わさった。
「キンダートランスポート」はこの本では「子供の輸送」と訳されているが、ゼーバルトの訳者・鈴木仁子氏は「移送」としていた。日本の「疎開」とは異なり、篤志家個人や慈善団体によって、ユダヤ人子弟や反ナチの家庭の子どもたちを組織的に退避させた活動だということを知る。
1980年代半ばになってようやく、この活動で命を取りとめた人たちが語り始めた。その1人が著者のヴェラ・ギッシングである。移送された子どもたちは自分は生き永らえたものの、家族や親族などの身寄りを失い孤児になってしまったのである。

キンダートランスポートに助けられた人ではないと思うが、もしかするとナチス迫害から逃れたのではないかと思われる人と、過去に少しだけ触れ合ったことがある。
前に、ここで書きかけて、興が乗らずに記事として途中で見送った経験だ。
1980年代の最初に英国のマンチェスターのとあるホテルに泊まった。小ぎれいで品の良いところで、ラフな格好の東洋人の娘にはふさわしくないホテルであった。当時そういう場所ならば、何となくバブリーな日本人を小バカにするようなところもあったのだけれども、そこのスタッフはとても親切であった。不思議な感じがしたものだ。もしかすると、遠いところから来たワケの分からない異邦人にも温かかったということが、今から書くことの根拠になるかもしれない。

中華料理店で夕食を外で終えて戻ると(おいしいものがなかなか食べられない英国では、中華ならば間違いないと言われていた)、言われていた通りホテルの入り口には鍵がかかっていたので、呼び鈴を押した。すると、経営者夫人らしい妙齢のマダムが出てきてくれた。
ちゃんと適当な夕食にありつけたかどうかというような話をしてから、彼女は私がどこから来たのかを尋ねた。そこで私も出身地を尋ねたのだったか……。“I'm Hungarian.”という答えが戻ってきた。それが妙に印象に残っているのだ。

そのときは「そうか、ハンガリー人なのか」と気にも留めず、国際結婚なのかぐらいに思った。実際、それが事実なのかもしれない。しかし、ゼーバルト『移民たち』(白水社)を読んでいたとき(8/14修正→12日に書いたとき『目眩まし』と勘違いしていました、すみません)、マンチェスターがユダヤ人の多い街であることを知った。
はっとした。
“I'm Hungarian.”と答えたときのマダムの含みと憂いある表情、慎み深い声の調子、そしてその顔が典型的なユダヤ人顔であることを思い出したのだ。
ユダヤ人の顔の特徴がどういうものか、東欧にいかにユダヤ人が多いのかを知っていったのは、それ以後の読書や映画鑑賞によってである。また、その翌年と、それからだいぶ経ってからの二度、ハンガリーを訪れる経験をした。別の興味からの訪問で、彼女とのことには関係はなかったけれども……。
年代的なものを考えても、あの女性がナチスの迫害を逃れて英国に渡った人だという可能性はある。ナチス迫害など、とても遠い世界の話のような気はするが、こういうことはあり得るのである。広島や長崎の被爆者、被爆二世が今もその傷を抱えながら生きているのと同様に、私たちが欧米の人と触れ合うとき、敢えて口にはしなくとも、その人がナチスの犠牲者やその子孫である可能性は低くない。

ホテルは今も美しい姿のままあることをホームページで知ることができる。
英国だからということもあろうが、小さな子どもたちや身障者に対する配慮も十分な、ホスピタリティの高いホテルとして存続しているようだ。あのマダムは今も健勝であろうか。
あの晩、自分がもう少し教養のある人間だったならば、話の接ぎ穂を見つけられ、何かもっと踏み込んだ話ができたのかもしれない。しかし、ほんのわずかではあるが、遠い場所からマンチェスターに来た女性どうし、心が触れ合ったことを感じられたのがせめてもの救いだ。
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中村びわ

Author:中村びわ
2004年から2011年まで書いてきた
「本のシャワーにさらす肌」
http://biwa.blogtribe.org/を、
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