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【No.1044】小説の間(あわい)に…6月26日

――つぎの日は谷を歩きまわって過ごしました。わたしはアルヴェロン川の水源のそばに立ちました。山頂からゆるやかにおりてきて谷をさえぎる氷河のなかに、その源はありました。前方には広大な山々の急斜面、頭上には氷河の冷たい壁が聳え、そこかしこに砕け散った松の木が見られます。帝王たる自然の栄光に満ちた謁見の間は、おごそかな静寂に包まれて、それをわずかに破るものは、轟々たる流水の音、どこかで巨大なかけらが落ちる音、雷のような雪崩のとどろき。またときおり積氷が山から山へと鋭い音を響かせて、不変の法則の無言の働きにより、まるで手のなかの玩具のように裂かれ、毀(こぼ)たれてゆくのでした。この崇高壮大な眺めが、わたしに受けとれるかぎりの慰安をあたえてくれました。それはありとあらゆる卑小な感情からわたしをひきあげ、悲しみをとりさるまではゆかなくとも、おさえ、静めてくれました。(森下弓子・訳P128-129)

つい先ほどまで、子どもが近くにいて、「あっ、これ、うまくいかねぇ。どうするんだ、これ」とか何とか、ある機械を操作していて、いかにも助けてほしいという感じで騒いでいたが、「ママは、もう勤務時間終えたからね」といなす。朝の5時台から数時間の家事に始まり、このような時刻まで対応できましぇん。
夜のわずかの自由時間ぐらい、静かに考えごとをしたり、日常から離脱できるものに触れて過ごしたいですからねえ。

バックパックをかついでひとり放浪の旅に出たい気にさせられる。「自分探しの旅」でも何でも、言い訳を見つけて……。行く先はどこかなあ……。とりあえず、高尾山でもいい、という気すらするよ。
まあ、それに代わる思索で、結構間に合わせられるようになったけれどね。

さて、上の引用であるが、一体何の本かというと、これです。

メアリ・シェリーの怪奇小説『フランケンシュタイン』。
創元推理文庫に入っているものを4月ぐらいに書店の平台で見つけた。3月に21刷になっている版なので、増刷ができたからということと、あるいは最近、この小説を下敷きにした海外小説の翻訳が出たからゆえの増刷ということなのか、そういった事情で「創元推理文庫の基本図書」というフェアの帯が巻かれて並べられていた。

ときどき出歩くときに持ち歩いているのだけれど、何か一気に読めない。深い内容というわけではないけれども、おどろおどろしい人造の怪物の話なのに、上のような描写があったりする。
人間は神が造ったものという教えが世のなかをまだまだ支配していた時代に人造人間の話だから、反宗教的、非社会的な内容と取られてしかるべきなのだろうけれども、とてもそうは思えない一節である。

人の真意がなかなか分からないように、小説家の意図も本当のところは分からない。この作品は無論、いろいろな意味で反社会的な要素が多く含まれているとは思うが、こういった部分を読んでいると、シェリーがどこかへ行ったときの思い出を、このような形で書いておきたかったから、それもあって執筆された小説であるようにも取れる。
以前、ある児童文学の作家と話していたときも、そういう話をしていた。「自分が知っている、あの町のあの丘や坂のことをどうしても書きたくて、そのために何か話をこじつけられないかと考えている」

そういう気持ちはよく分かる気がする。自分も、本のことよりも、本にかこつけて少女時代の思い出を書いたり、本にかこつけて日記めいたものを書いたりしている。ここでも、別の場所でも……。
本道よりも、そちらが大事という姿勢のとき、そのような余技の部分で、思いがけない反応があったりするものではないかと期待する。何か、そういう形にならない感じで、誰かに影響を与えるということも面白く感じられる。
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中村びわ

Author:中村びわ
2004年から2011年まで書いてきた
「本のシャワーにさらす肌」
http://biwa.blogtribe.org/を、
こちらに引き継ぎます。

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