スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

【No.1378】東京というローカリティ、私というローカリティ


『飛行士と東京の雨の森』は雑貨や絵本が好きな女性たちの目を惹くような愛らしい面相をした本で、音楽と散歩と、東京という街のローカルさと、ひとりで過ごす時間と部屋の暗がりと、たまに会う友だちの笑顔とカフェのざわめきの中での読書といったものが好きな人なら、きっと気に入る中短篇小説が七つ収められている。
だが、チクッと刺さる待ち針がところどころに外し忘れられているから、用心しながら読んだ方が身のためかもしれない。

身投げした娘のことを音楽にしてくれという依頼を受けた音楽家が、彼女の生きてきた痕跡を追い、死に至るまでの内面を解くのにのめり込んでいく「理想的な月の写真」。
一冊の航空史と国際結婚をめぐり、「居場所」と「向かう場所」での人の縁や出会いが表現された「飛行士と東京の雨の森」。
一組のカップルがそれぞれに属する環境が時間軸で輪切りに解体され、再構築された「都市と郊外」。
天涯孤独となって生きる気力を失った男性が、カメラを手に彷徨い続ける空間で、自らの弱さに向き合っていく「淋しい場所」。
全篇については説明し切れないけれど、どこか不思議な感じ、宙吊りで取り残される感じがする。それを先ほど、外し忘れられた「待ち針」と書いてみたものの、刺さったままでも仮縫いを試着するに特段の不自由はない。

最後の「奴隷」という決め打ちのSFを除けば、ファンタジーではない小説ばかりなのだが、どうしても「奇妙な味」と表現したくなる。その奇妙さはどうにも割り切れないものではなく、自分が日常的には注目せず、どうかするとやり過ごしてしまう種類の「あいまいなもの」「幻想味」だから、親近感が持てたり、覚えがあると感じたり、妙に懐かしくなったりする。

わたしはもうあまり人を信用することはない。とくに生活苦を経験していない人間を信用することはない。彼らは幸運に過ぎた。しかし生活苦を経験している人間もまた信用はしなかった。そういう者には人間に必要な寛大さが欠けているように思えた。
(P69-70)

小説の主人公たる語り手が好きなように、こういうことを語っている。お酒でも飲みながら聞き流しても良さそうなものだ。ただ、読みやすさにだまされて先に進んでしまえば、せっかく用意された思索の入り口も、カルチュラル・スタディーズへの入り口も素通りしてしまうことになる。実にもったいない。
一度さらり読んだら、じっくり待ち針を外しながら読んでいくと面白い。自分というローカルな存在を、向かうべき場所へ縫い合わせていくようにして……。
スポンサーサイト

テーマ : オススメ本!!
ジャンル : 本・雑誌

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

プロフィール

中村びわ

Author:中村びわ
2004年から2011年まで書いてきた
「本のシャワーにさらす肌」
http://biwa.blogtribe.org/を、
こちらに引き継ぎます。

最近の記事
月別アーカイブ
カテゴリー
最近のコメント
最近のトラックバック
RSSフィード
ブログ内検索
リンク
QRコード
QRコード
FC2カウンター
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。