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【No.1376】「驚きが新しい知識につながる」と言う人

この前の年越しには、確かバルガス=リョサ『悪い娘の悪戯』(作品社)を読んでいた。とても刺激的な年越しだった。

今回は、海外小説2冊を少しずつ読み進めていたため、双方の登場人物の多さに、米国人とイタリア人の名前がシャッフルされて「よせばよかったのに」状態。果たして、どちらも最後まで到達できるものだろうか。
その2冊を読むのに、読みさしにしていた本を先ほど読了。聞き書きの名手・塩野米松氏の『木の教え』(ちくま文庫/単行本は草思社から刊行)である。



暮れの27日、仕事帰りに新宿のデパートに回り、汁椀を買い求めた。
越前の漆器である。
越前は、オタマジャクシ型をした福井県のあたま部分。子ども時代、そこにある武生市に2年暮らし、そこからオタマジャクシのしっぽに当たる若狭の敦賀市に移って2年暮らした。知っている土地の伝統工芸品を手に入れることには、ちょっとしたときめきがあった。

漆器コーナーで何種類かが値下げ品になっていて、私が選んだのは一客が2000円ちょっと。
お高いのか、そうでないのかはよく分からないが、いくつか見比べた中で、価格の割に品が良い。かといってハレの日のためにしまい込んでおかなくてはもったいないという豪華さかげんではなく、正月の祝い膳(というほどのものでもないけれど)にのせた後、日常使いにして毎日の不愉快がなく「元が取れる」と判断したので購入を決めた。

その翌日28日は仕事納め。何か書店に寄って「本の買い納め」もしないといけないような気にさせられたので、前から買いそびれていた白水Uブックス2冊を手にし、レジに行こうとして、『木の教え』に目が留まった。

これもまた、よくあるジャケ買いである。どう見ても、中身にマヌケなことが書いてなさそうな面相だし、塩野米松氏という書き手の評判は、子どもの本の世界の方から聞こえてきていた。
しかし、よく考えてみると、前日に「椀」という木製品を買ったことがかなり強く意識の底にあったのだろう。

中のページもめくらず、カバーの内容説明にあった「法隆寺を千三百年以上も持たせてきた宮大工の秘伝」「木に教わり、山に叱られて学んできた木の文化や自然観を振り返る」といった文言に動かされ、ささっとレジに持ち込む。その時、面識のあるノンフィクション作家・山村基毅氏の『森の仕事と木遣り唄』(晶文社)という著書の一冊、氏が敬愛する宮本常一の著作のことも頭によぎった。

『木の教え』には、あるべくして「椀」や「漆」の記述もあった。
椀を作るのは木地師と呼ばれる専門家で、木の丈夫さや紋様のことを考え、丸太から木を取るということである。しかし、確か我が家のものとなった椀には、木の部分は中国産だというシールが貼られていた。
丸太からの取り方には「横木取り」と「縦木取り」があり、この本には、そういうイメージの浮かびにくいところにはイラストが添えられている(ルビも振られているから、中高生のテストや入試問題にもお薦めできそう)。
あにはからんや、どこかミステリじみていたのは、漆についての記述であった。漆を集めるのは「漆掻き職人」というそうなのだが、この漆掻きには何でも「殺し掻き」と「養生掻き」という二種類の木の傷つけ方があり、樹液を取る。

殺さずに取り続けるほうがいいように思いますが、養生掻きでは取れる量が少ないのです。そのため、現在日本で一番たくさんの漆を集めている岩手県浄法寺では、ほとんどが殺し掻きです。
(P136-137)

この漆を集めている場所が「〇〇山」とか「〇〇農園」だったら良かったのだが、お寺さん、それも「浄法」という名のお寺さんだというのに「殺」という字が使われているものだから、「ひいいいぃ」と一瞬、たじろいだのであった。

何だか「このようにして、木という植物のいのちをいただきながら、私たち人間は暮らしている」というような気がしてきて、良書推薦めいた落としで文章をくくりたくもなるが、この本の最初には、独特の価値観が紹介されていたのであった。
本文の書き出しは次のようになっている。

木は二つのいのちを持っています。
一つは植物としてのいのちです。
[中略]
もう一つは木材としてのいのちです。
木は伐り倒された後に、木材としてのいのちを得ます。
(P16)

この考えは、「落ち葉は秋という季節に生まれてくるものだ」と言う、絵本作家の平山英三・和子夫妻の思いにも通じる。
「木材としてのいのちを得る木」という見方で驚きをもたらしてくれた塩野米松氏は、故郷の秋田県角館での木との思い出にも触れている。この文庫本には記載がなかったが、東京理科大学で化学を学んだ人だという。
科学技術の合理性・論理性に学んだ人が、失われていく伝統文化や技術の知恵と工夫に触れ、「聞き書き」という地道な作業で残していこうとするものを、もう少し読んでみたいと思う。

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