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【No.1368】名画で追うキリストの生涯





昔、まだ文字だけでびっしりの本を読むのが苦手だった頃、挿し絵を追っていくのが楽しみだった。
幼年向けの童話が中高学年用の児童文学になり、挿し絵が数ページごとしか現れない本を読むよう勧められるようになると、ときどき出現する挿し絵のページが一時避難所のように思え、次の挿し絵はいったいどこなのだろうと探ったものだ。

後年、子どもの本を編集する仕事についた時、作家から預かったお話を一文字一文字写しながら、この見開きにはこれぐらいの挿し絵、ここには小さなカットというように、手作業で割付用紙にレイアウト案を作る作業をした時の何と楽しかったこと。
そして、こちらのイメージした絵などが及びもつかない素晴らしい原画が上がってきたり、「ここ、片側1ページより見開きでワイドにした方が効果的だから、上半分を使わせてもらったよ」などと、「さすが、納得!」のレイアウトが手練れの画家から手渡された時の喜び。それをお話を書いてくれた作家に見せる時の喜び。
自慢話のようで恐縮だが、私にはそのような特殊な本にまつわる思い出があるのだった。

イエス・キリストの物語を、文字だけで読んだならばどうだろうか。あるいは、誰か一人の画家が手がけた挿し絵つきの本で読んだならばどうだろうか。
そう考えたとき、さまざまな時代のさまざまな画風、さまざまな画風ゆえさまざまな思想の画家が描いた名画を挿し絵のようにしてキリスト教の発祥を辿れる本書『名画と読むイエス・キリストの物語』(大和書房)の価値は大きい。イエスの劇的な生涯のうち、いくつかのステージを、さらにインパクト強く胸に刻むことができる。
インパクト強くと言っても、十字架に掛けられたリアルなイエス・キリスト像の表紙は、いくら巨匠ベラスケスの手になるもので「最も美しいイエス像」と言われているにしても、あまりにリアルで痛そうで辛そうで直視するに堪えない。
これを表紙にするなど「悪趣味」「あざとい」と感じられもするから、書店で手に取るにも引いてしまう人もいるだろう。しかし、やはり「十字架」はキリスト教にとって特別なものであり、肉体がほろびる磔刑があってこそ復活の伝説があり、世界中への伝道があったのだと読後には納得できる。

見開きごとではないが、6~7ページに1枚ぐらいは絵が入っている。「幼子イエス」「洗礼」「荒野の修行」「伝道」「奇蹟」「女たち」「使徒たち」「エルサレム」「最後の晩餐」「ゲッセマネ」「裁判」「磔刑」「復活」という13章(これは「13日」を意識!?)立てで構成されていて、各章のメインになる絵と、それをめぐる逸話に関する絵が数枚配されている。

クリスチャンやキリスト教に興味ある人、美術愛好家でなくとも、前にどこかで見たような感じのする絵が含まれていることと思う。「これは、あの場面ね」「これって、何の場面?」と、どちらの受け止め方をする人にとっても、イエスの生涯の物語の中で、それがどういう契機だったのかを追いながら確認できるのは、その場面の絵1枚きりに出会うよりも、背景や歴史を帯びた表現の価値に触れることができるので、絵の深みに入り込んでいける。

例えば、第4章「伝道」にギュスターヴ・ドレ「イエス・水上を歩く」という、本書で唯一のモノクロ作品が掲載されている。聖書の挿し絵に使われたものだが、キリスト教に詳しくない人がこれ1枚にどこかで出くわしたとしたら、「水の上を歩くなんてできっこないし……。こういう奇跡のエピソードやイメージを作って、まったく宗教ってのは勝手なガセ」と思うかもしれない。
それが、この本では、淡水のガラリア湖で出会った漁師二人がシモン改めペテロとアンデレという最初の使徒となること、さらにヤコブとヨハネ兄弟という漁師もスカウトされることを経て、船による布教がされていたことが書かれ、暴風雨を鎮め制御するイエスの超人的能力が紹介される。巻頭の「はじめに」で、塩分濃度が異常に高い死海であったなら、水上歩行に近いこともできたかもしれないという筆者の推察を読んだ後なので、弟子たちがイエスの教えに心酔し、厳しい伝道の旅の中で、現実と幻の間に何を見たのか、絵が語りかけてくるものに寛容になってくる。

使徒たちが、あるいは画家たちが現実の先に見た幻なのか、幻の先に見た現実なのかははっきりしないが、絵が見せてくれる2000年もの昔の風景に、五体を投身してしばし遊ぶのに恰好の本だ。
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テーマ : オススメ本!!
ジャンル : 本・雑誌

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中村びわ

Author:中村びわ
2004年から2011年まで書いてきた
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