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【No.1358】生きることの素敵を肯定する文学



スタジオジブリのアニメーションは楽しんできたし、角野栄子『魔女の宅急便』、ル=グィン「ゲド戦記シリーズ」、ノートン『床下の小人たち』といった優れた児童文学を映像化した仕掛け人として、宮崎駿氏はいつも気になる存在。
けれども、氏が絶賛していたデイヴィッド・アーモンド『肩甲骨は翼のなごり』が、どうもピンとこなかったことがあってから、読書家や本の紹介者としての宮崎駿をあまり気に留めずにきた。

本の趣味ってまったく微妙なものだ。「あの人がいいというなら、信頼できるから読んでみる」という気にさせられる羅針盤的存在はめったに現れない。
海外文学好きの私は、須賀敦子という羅針盤を失ってから、さほど当てにならない自分の嗅覚を頼りに本を選んできた。外れたら仕方ないやと割り切って……。
今、海外文学の紹介者としては、翻訳家の鴻巣友季子氏やライターの豊崎由美氏の名を見かけることが多いが、正直、彼女たちのほめ方の癖が自分の好みには合わない。申し訳ない気がしないでもないけれど、2人の書くものは、つらーっという感じでしか目を通せない。
須賀さんの毅然とした姿勢、頑固さ、権威にすり寄っていかず、本の精髄をつかもうとする愛情に強く惹かれる。

話がそれた。 
岩波少年文庫が創刊60年を迎えた2010年、宮崎駿氏が50冊を選び小冊子にしたという新聞記事を目にした。私はそれが岩波書店の販促物だと思い、2軒ばかりの書店で尋ねてみた。「何ですか、それ?」のようなリアクションに落胆し、「いいや」と放置したが、どうもそれはジブリで出された冊子だったらしい。それが第Ⅰ部として編集され出版されたのが『本へのとびら』という岩波新書である。

少年文庫に限らず、岩波文庫も新潮文庫も昔は酸性紙であった。そのため何年か置いておくと、日焼けさせた覚えはなくとも、ページは周辺から何となく黄ばんでくる。1ページごとに1冊、書影つき宮崎コメントが入った岩波少年文庫紹介ページは全部カラーで、地は、その酸性紙の黄ばみになっているものだから、何とも切なく甘酸っぱく、懐かしさがこみあげてくる。
本の紹介は、なぜそれを50冊に入れたのかという理由づけだ。児童文学史の中での位置を説明したり、価値を論じる「書評」ではない。書評を書く人が敢えて避ける「素晴らしい」「愉快」「おもしろい」のような感覚的表現が多用される。自分にとっていかに大切な本かという内容だから、そうなるのである。

どういう暮らしぶり仕事ぶりの人が、その本をどう受け止めたのか、その本のどういうところに心を動かしたのかに、私はとても興味がある。
キラキラしたアニメーションをコツコツ職人として作り上げる人が、ファージョンの『ムギと王さま』の各篇を「ひとつひとつのお話が、どれもキラキラしていてクリスマスツリーのようです」のように書いたり、ファンタジーを大切にするクリエイターが『日本霊異記』を「迷信とか古くさい信仰と片づけてはいけません。ぼくやあなたの心の奥のもっと奥の方に、今でもふしぎなものが伝わっているからです」のように取り上げたりする。一冊一冊への思いがとてもストレートに伝わってくるのが感動的で、アニメーターとして挿し絵にどういう影響を受けたのかを明かしている点にも引きつけられる。

第Ⅱ部は、まとまった量のエッセイで、少年文庫や子どもの本との関わりについて書かれている。読書の効き目や効果といった発想はやめたほうがいいとし、「本を読むから考えが深くなる、なんていうことはあまり考えなくてもいいんじゃないでしょうか。本を読むと立派になるかというとそんなことはないですからね」(P146)、「要するに児童文学というのは、『どうにもならない、これが人間という存在だ』という、人間の存在に対する厳格で批判的な文学とはちがって、『生まれてきてよかったんだ』というものなんです」(P163)「『子どもにむかって絶望を説くな』ということなんです」(P163)等、子どもと本の関係について踏み込んだ発言をしている。
この混迷の時代に、大人が子どもに何をしてあげられるのかというところに話が流れ込んでいくにつれ、目に涙がたまってしまった。そして、困難な時代の幕が上がった今、自分たちはファンタジーはつくれない、つくってはいけないと吐露し、今の子どもたちの中から新たなファンタジーが生まれてくることを期待するというくだりに、私なりの納得と共感が及んだとき、ジブリのアニメーションと共に子育てのできた幸福な時代を思い出とする覚悟が必要なのだと知らされた。

巻頭に、縁側で腹ばいになって本を読む男の子のイラストが口絵にはさまれている。はだしの足の裏は、窓の角の部分に当てられている。壁に足を伸ばしたり、カーテンを足にはさんだり、私もそんなことをしながら寝転がって児童文学を読みふけったものだ。
魔法のような時が本と共にあったことを思い知らされ、生まれてきてよかったという思いをよみがえらせてくれる素敵なガイドブックであった。
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テーマ : オススメ本!!
ジャンル : 本・雑誌

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中村びわ

Author:中村びわ
2004年から2011年まで書いてきた
「本のシャワーにさらす肌」
http://biwa.blogtribe.org/を、
こちらに引き継ぎます。

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