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【No.1020】青白い光(1)…6月1日

金曜日の夜、夕飯の片付けが終わり、浴槽を洗いお湯を張るようにしたあと、切らしてしまったお米を買いに行こうとした。給食がなくなって、中学生のお弁当作りが始まってから、やはりお米の減りが早いのである。山形の生産者組合から取り寄せている分が、あれよあれよといううちになくなってしまう。

その日は、仕事でとんでもない勘違いをして作業をしてしまったことで、帰宅が予定よりはるかに遅くなった。一度家に帰って自転車で出直し、夕飯前に買い物を済ませるはずのつもりが、そうできなくなったのだ。
それでも、家屋の全面リフォーム後、8年目にして初めて切れてしまった玄関灯の電球だけは買って帰らないと今夜も暗いままで困る。そう思い、それだけは隣駅の家電量販店で手に入れて帰宅したのであった。早く夕飯の支度に取り掛かりたいというところ物置から脚立を出し、1メートルほどの高さによじ登り、誰の助けも借りずに電球を換えた。
電球、それは正確には3波長型のコンパクト蛍光ランプであったのだが、ふっと、ある小説を思い出す。水村美苗の『本格小説』である。

米国在住の水村家に若い男性が訪れる。「良家」に属す水村家とは違う世界に生きる男性である。学歴がなく、渡米してしばらくは「お抱え運転手」をしていたというその男に、水村夫人は子ども部屋の電球を取り替える作業を気軽に頼む。長身だったからということもあろうが、そこには「この人になら、体を使うそのような作業をさせても良い」という微妙なニュアンスがあったという挿話であった。
物語はその後、子ども部屋の主であった美苗、つまり、作家本人の世界(であるかのように書かれている世界)を抜け出し、その男性の立身出世物語へと展開していく。それと共に戦後日本の良家が没落していく様を描き、ひとつの時代、ひとつの社会という全体を描き出していくのである。時代や社会全体を描くから、「本格小説」という小説のジャンルそのものが題名となっている。
巧妙な仕掛けが張り巡らされた、古典の味わいの小説であった。水村氏の新作はそろそろ用意されているのであろうか。

「食事の仕度も掃除、買い物も、そして電球の取り替えも、家事のことごとくは下々がなすべきこと――そのような感覚で今も暮らしを営んでいる人は、限られているだろう。けど、確かにいるには違いない」
ふっと、そのようなことを考える。おそらくそういう身分でいられたにしても、私の場合、多くを自らの力でこなそうとするに違いないだろうが……。
<この項つづく>
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2004年から2011年まで書いてきた
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