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【No.1386】恐怖と沈黙に待たれる雪解け

話題の児童書『スターリンの鼻が落っこちた』(岩波書店)を読む。

3見開きぐらいごとにモノクロの挿画があり、絵を効果的にワイドに見せるため、天地と左右の長さが同じように作られている。つまり表紙が正方形に近い個性的な判型。
挿画へのこだわりは、作者が絵も手がけていることによる。作者がなぜふんだんに絵を入れているのかと言えば、それは共同アパートがどのような暮らしを強いられる場所なのか、どのようなストレスがたまってしまうのか、だからこそ「密告」を思いつく人が出てくる環境になっているということ、また、秘密警察の制服やら車がかもし出す雰囲気、スターリンの権力を象徴する像や旗など、現代の子どもたちが言葉だけではイメージし切れないものをうまく伝えたい意図があるのだろう。

ソビエトと言えば、物が不足し、人々が日常的に長い列を作って食料品や雑貨の入荷を待っている――テレビがそういう風に町の様子として伝えていたものが頭に焼きついているが、その長い長い列をフィーチャーした最後の8ページの挿画が圧巻だ。

語り手は10歳になったばかりの男の子で、父親は秘密警察勤務の立派な共産主義者。彼は明日、いよいよあこがれのピオネール団の入団式を迎えるということで、わくわくしている。
ところが、その夜、思いがけない出来事が起こる。父子の暮らす共同アパートに秘密警察が乗り込んできたのだ。男の子の輝かしいはずの将来は一変してしまう。

伝統ある米国の児童文学賞ニューベリーのメダルは逃したものの2012年オナーブックに選ばれたのは、特殊な状況下にあった管理社会の実態を明るみに出した意義が評価されたものと納得できる。
けれども、「ちくり」「こそこそ」「(パノプティコンのような)監視」「裏切り」「出し抜き合い」のような風通しの悪さ、オモテ・ウラをうまく使い分けないと処世していけない息苦しさは、今の子どもどころか、自分の周囲にもちらつくことがままある。競争は管理社会でも自由主義社会でも変わらんのよ、息苦しいのよと正直へこんでしまった。

スターリン時代の密告や秘密警察周辺では、『囁きと密告』という大巻が例によって白水社から最近出されている。

スターリン体制と聞いて、ナチス・ドイツの仕業と見せかけた「カティンの森虐殺」を思い出したが、それについては、アンジェイ・ワイダの映画の原作『カティンの森』が集英社文庫から出ているし(リンク先に拙文あり⇒一所懸命書いたので、読んでいただけると嬉しい)、みすず書房『消えた将校たち カチンの森虐殺事件』改訂新版も映画に合わせて出たので、時間あれば読んでみたい。

それから、少し切り口の変わったところで、小説『粛清』『包囲』等もソビエト絡みの素晴らしい作品のようで気にはなっている。

「スターリンの鼻」はゴーゴリの幻想短篇『鼻』が下敷きにされているだろう。とても面白いから、ゴーゴリ『外套』と共に必読だぜよと思ったけど、そちらまでペタペタ貼っていると切りがない。光文社古典新訳文庫の訳は個性的なので好き好きもありそう。

いい本がいっぱい出ているので、こういう風に関連づけて「連休読書」というのは楽しそうだが、あいにく、いろいろに追われているもので残念、残念。誰か代わりに読んでくれないかと思い、こそっと書いておく。



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【No.1385】「教養」の基礎なす読みもの群のつづき

『消えた王子』の登場人物に、バーネットは次のようなことを言わせている。その部分でも本を置いて、しばらく考えごとをした。

「人の一生がだれからも惜しまれないとき、その最期は孤独だ」ロリスタンはぽっつり言った。「当人が自尊心をうしなってしまった場合、のこされた者はその魂にたいする同情を惜しむべきではない――そのように孤独な魂にたいして、せめても何らかの餞(はなむけ)をささげたいからね」最後の一語は、いささかの間をおいてつけくわえられたのだった。(上巻P175)

社交的だったにもかかわらず孤独だった父の晩年や死に様を思い出しながら、私自身の終焉がどういう感じなのかを想像してみる。
明るい性格だったにせよ、暗い影を引きずるような性格だったにせよ、思いのほか長生きをしてしまえば、仲の良かった人たちが去り行き、その後は誰しも孤独なものかとも思える。名声を得た人とて、子孫に恵まれた人とて、いざ死に向かうときは一人きり。
それを考えれば、惜しまれようと惜しまれまいと、誰にとっても等しい死の孤独というものに納得できる。ましてや、意識が混濁し、混濁する前の人格とは異なる人格となってしまい、自分で自分の孤独さが認識できなかったら、どうなのか。

ただ、バーネットがここで伝えたいのは、死の孤独についてなのではなく、人から惜しまれない死を迎えないよう、人のために生きていく生の勧めなのだろうということは感じ取れる。


『南から来た男』は、好評だった『八月の暑さのなかで』の姉妹編だ。「ホラー短編集2」となっているので、遠からず3冊め、4冊めと出ていくことになるのだろう。全部で11編で、読んだことがあったのは半分ほど。
ポー(これは翻訳者・金原瑞人の創作も入った翻案もの)、ダール、О・ヘンリー、ウェルズ、デ・ラ・メア、ブラックウッド、ボウエン、ブラッドベリ、スティーブンソン、ホワイト(これは知らない作家)といった名手がずらり揃ったところに、これも名手と言えば名手、アメリカ文学の大御所ウィリアム・フォークナーによる『エミリーにバラを一輪』が並んでいる。
ここを入口にフォークナーの難解とも言われる大作群に分け入っていけるかどうかと言えば、その可能性は低そうだが、翻訳者と編集者が、どういうやりとりをしながら所収作品を決め込んでいったのか、「若い人の内面に種を蒔いておきたい」という意思の力が感じられる。とても良い作品集だ。
『エミリーにバラを一輪』については、あとがきにも書かれていて、話者が女性。丁寧な語り口調で訳されている点が意欲的。NHKの大河ドラマで、女性アナウンサーや女優が過去に何回か「○○なので、ございます」「○○ということで、ございました」というようなナレーションをしていた。それに似て、古くからの語り伝えらしい効果がしっかり出せている。

『シェイクスピア名言集』は、シェイクスピアをラフに捉えたいというニーズで読んで、本質的な部分もつかんでしまえる贅沢な本。見開きごとに一つ、シェイクスピア作品中の名言が取り上げられていて、それをシェイクスピア研究の第一人者・小田島雄志が解説してくれているわけだから……。
表紙のイラストは和田誠だが、本文のどことなく愛らしいカットが、おかべりか。そういうところにも手を抜かず本作りをしているところが「岩波クオリティ」だと嬉しかった。

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【No.1384】「教養」の基礎なす読みもの群


外国人と話す時、あたりさわりがなく話を弾ませられそうな話題として、子どもの時によくやった遊び、よく歌った歌、読んで面白かった本などといったものは便利に使えそう。
「読んだ本」というのは、話す相手が文字の読める人、先進国の人、一定の教育を受けた人に限定されてしまうが、語学力やマナー、フレンドリーな人柄、自分の属する社会の伝統・文化についての知識などと同様、交流に外せない素養だという気がする。この場合、自国の作家の本ということでなく、世界の少年少女、若者に広く読まれている名作の類い、人類の文化遺産と呼べるものということになる。
実際、ジュール・ヴェルヌ『地底旅行』の話を、少し年下の外国人としたことがある。ヴェルヌ級になれば、そこを皮切りとして文明について話を展開させたり、空想力の大切さについて意見を交換したりといったことも可能になる。

読みものは楽しむために読むわけだけれど、読んですっとする――つまりワクワクしたい欲求を消費的に満たすためだけではなく、読んで「おや、これは広がったかもよ、自分の世界」と、いつか思えるようになれそうな本を選んでの読書は、伸び盛りの若い世代には欠かせない。
また、子どもの内面を耕してくれる本というのは、がっつりした読書に挑めない大人にとっても大変ありがたい。最近、すきま時間を利用して読んで、そのありがたさを感じた本4冊について書いてみる。
どれも岩波書店刊。うーん。
やはり、岩波の子どもの本は、教養人を育てていくために出すというコンセプトが崩れていないということなんだろう。

うち3冊は岩波少年文庫であるが、その各冊の後付に「岩波少年文庫創刊五十年――新版の発足に際して」というマニフェストがある。
「……(前略)……歳月を経てなおその価値を減ぜず、国境を越えて人びとの生きる糧となってきた書物に若い世代がふれることは、彼らが広い視野を獲得し、新しい時代を拓いてゆくために必須の条件であろう。」「幼いころからの読書体験の蓄積が長じて豊かな精神世界の形成をうながすとはいえ、読書は意識して習得すべき生活技術の一つでもある。」
などと書いてあり、後者の後につづく結びの一文にいつも胸を熱くする。
「岩波少年文庫は、その第一歩を発見するために、子どもとかつて子どもだったすべての人びとにひらかれた書物の宝庫となることをめざしている。」

『消えた王子』は、『秘密の花園』を書いたバーネットの知る人ぞ知る傑作。仮想のヨーロッパ国サマヴィアの伝説の王子の血筋が復権することを願う秘密組織の暗躍が、強い友情で結ばれた2人の少年の視点から書かれる。500年前の政変以来、正統な王の家系の末裔がその高貴な身分に相応しくひそかに育て上げられ、その一族を支えるべく臣下の子孫もひそかに訓練されてきた。
日本の天皇の棺を担ぐため、先祖代々教えを受け継いでいる「八瀬童子」のような、信じ難いスケールの大きな話だ。

スケールが大きな話だが、惹かれるのは、ちょっとした部分だったりする。
いったん、こつを心得れば、心の働きによって体を思うようにコントロールできるということをマルコは本で読み、父親からもそう聞かされ、実験してみるうちに、ふしぎなことに気づいた。(上巻P125)

ここには「自己管理」「自己暗示」の大切さが読み取れる。それといっしょに、「本を読む意味とは、どういうものか」「知恵ある大人に話を聞くと、どうなるか」「試行錯誤してみれば?」などといった教えも読み取れる。
そういうことは読んですぐ気づけるものではない。いつか気づけるかもしれないことを願って「種」が蒔かれているのだ。やはりバーネットはすごいやと感じ入る。
<つづく>

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プロフィール

Author:中村びわ
2004年から2011年まで書いてきた
「本のシャワーにさらす肌」
http://biwa.blogtribe.org/を、
こちらに引き継ぎます。

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