スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

【No.1422】おもろうて、やがて物悲しき昭和


加太こうじ『紙芝居昭和史』は、紙芝居をめぐる加太の自伝でありながら、紙芝居人物列伝のような要素もあり、下記のような「まえがき」の結びから、もうどうしようもなく、時代が平成に移り変わったことが悔やまれる本である。

   この本を、紙芝居によって生きた青春時代のすべての仲間にささげる。
   紙芝居画家として名もなく死んでいった何人かの仲間にささげる。
   街々を拍子木を打ち鳴らし、太鼓をたたいて飴菓子を売り、紙芝居屋として
   子どもたちとともに一時期をくらした人たちにもささげる。
   また、紙芝居を好んだすべての人たちにささげる。
   すぎ去り、ほろびたものはなつかしいが、その過去の実体のなかから、
   これから生きることへの何ほどかの示唆を得ていただけるなら、
   この本を書く私としては望外のよろこびである。(p.ⅳ)

人物列伝部分には昨年11月末に亡くなった水木しげるが登場する。紙芝居の画家としてキャリアをスタートさせた水木の筆名の由来も紹介されている。
列伝に入る前に、「ゲゲゲの鬼太郎」がどういう紙芝居から派生してきたのかが分かる、古い紙芝居についての記述がある。

加太の記述を受けて、水木しげるの解説がある。
そこには、「紙芝居丸の沈没間際で、僕はかろうじて救命ボートに乗ったのだ」(p.322)と、貸本マンガをめぐる告白もある。
そこまで来て、彼らの日々と私の思い出がリンクする。
小学3年だった私は、住まいの近くの急な坂道をのぼったところにある貸本マンガ店に入りびたるようになり、怖いもの見たさに水木しげるの人面瘡の話など読み、夜に寝つけないような刺激を得てしまった憶えがある。

スポンサーサイト

テーマ : オススメの本
ジャンル : 本・雑誌

【No.1421】名もなき公立学校の教師たちに


朝の連続テレビ小説で話題になっている広岡浅子(見る暇がないのだけれど)しかり、玉川学園の小原国芳や成蹊学園の中村春二など、創立以来、教育理念が一貫している私学畑の教育者というのは、学校が伝統とともに、その教育者の名を残そうと努力するけれど、公立学校の教師というのは、名前が残っていきにくいものなのだろうか。
最近では、公立学校の先生で実績が目立つと、陰山英男先生のように私学に引っ張られてしまう。

公立小学校で41年勤め上げた金沢嘉市という教育者の実践した童話の語りが私の研究対象。
西多摩郡、豊島区、港区などで教鞭を取った教育者で、定年を迎える前は世田谷区の三つの小学校長を歴任した。
最後の勤務地は下北沢の代沢小学校。今年度は、その管内で仕事をしているというのも縁のあることで光栄だ。

戦後いちはやく日本の歴史の授業に取り組んだこと、戦中教師としての反省から民主主義・平和教育にこだわったこと、勤務評定による信賞必罰主義での学校運営に反対したこと、NHKラジオで14年間ニュース解説番組を担当したことなど、伝説に残る教育者は今年、没後30年を迎える。


テーマ : オススメの本
ジャンル : 本・雑誌

【No.1420】食事が楽しみと言える幸福

正月返上で(というか、ここ2年ばかり、すべての休日を返上している気が……)長い論文を苦しみぬきながら何とか書き上げる。
けれども、その後もほっとひと息つく暇などなく、ミッションは次から次につづく。

ミッションが多いというのに、今週、時間を割いていただけるチャンスありということで、急きょ「発表させてください」と名乗り出た。それで昨日と今日はこもってプレゼンテーション用のスライド作りに励む。

配信されてきたメールマガジン「[書評]のメルマガ」で林さかなさんの文章を読む。その後、彼女のブログ1day1bookに飛んでみて、家族そろってわいわいがやがやと食事する様子やら、人を支える用事の合い間に興味を持った本を読みながら生活の質を高めている様子やらを好ましく読む。

そういや、学校の生協以外、書店という場所にしばらく足を踏み入れていないな、とか、研究のために行けていない場所、怠っているつき合い、うっちゃっている用事などが多いな、とか、もろもろが脳内に点滅するが、「そうだ、どうやら自分は人間らしい幸福とは別の生活で、なすべきことを与えられているようなのだ」という自覚で、しばしの夢想から目が覚める。

昼ごはんは久しぶりに宅配ピザを頼んだ。
お弁当作りも含め、食事作りには割にしっかり取り組んでいるのだ(くたばっちゃいられないため、体づくりが大切)。
「ピザ、最初はいいけど、何枚か食べていると飽きてくる」と家族と話しながら、先週、社会学演習で仕入れたアメリカの教育事情の話を思い出す。
ひとつはホームスクールの件なのだが、ピザを食べていてよみがえってきたのは学校給食の業者にファーストフード業界が参入している件。Mクドナルド、Pザハット、Bーガーキング、Dミノピザ、Wェンディーズといったところ。給食予算が少ないと、人手や設備のいらないファーストフードが有難いというなるほどな話なのだが、しばらく前に見た「ナショナル・ジオグラフィック」誌に、貧困地域では安く買える食品がファーストフードなので、日常的な食事がファーストフードだという特集があった。
そうなると、朝食はなし、ランチが給食のファーストフード、夕飯には親に買い与えられたファーストフードなどという子どもも少なくないのかと思いがおよぶ。さらには、先般の平成26年度「国民健康・栄養調査」を受けて、厚生労働省が低所得者層の食事にコメントを出した件も思い出す。栄養バランスを考える余裕がないようなので、食事の内容を見直すというように健康への関心を高めてほしいという内容のもの。
マリー・アントワネットの「パンがないならお菓子を食べれば」的だという書き込みをツイッターで見かけたが、食事の件に限らず、想像力のおよばないような局面に置かれている世界各地の子ども、弱者、マイノリティについてしばらく思いをめぐらせる。




テーマ : 伝えたいこと
ジャンル : 日記

【No.1419】砂漠の羊飼いたちの暮らし『ハナンのヒツジが生まれたよ』


「知識」という形ではなくて、絵を見る楽しさ、お話に吸い込まれる喜びと共にいろいろなことを教えてくれるのが絵本だと思っている。
この絵本も、ほんの10~15分ほどで、ヨルダンの砂漠で暮らすベドウィンたちのヒツジを飼う暮らし、テントでの移動、ラマダーン(イスラム暦9月=断食月)、いけにえ祭り(イスラム暦12月の大祭)の言い伝え等を分かりやすく教えてくれる。

画家の小林豊氏は『せかいいちうつくしいぼくの村』『ぼくの村にサーカスがきた』等、中東やアジアの人々を描いた絵本で定評のある日本画家。
今回は、JICAのシニアボランティアとしてヨルダン・ハシミテ王国のアカバ、カラクに派遣されたご主人といっしょに現地で各1年ずつ暮らした井上夕香さんと組み、井上さんが死海で出会った、ハナンという12歳の少女のために描かれたお話に絵をつけた。

そうか、ヒツジを飼うのだから、砂漠でも野原があるんだ。
砂嵐は「ハムシーン」というのか。それが、河原や人々にこういう被害をもたらすのか、それは「ジン」という魔物に絡んでいるのか。
ヒツジの餌が干ばつでなくなってしまうと、ホブズというものが代用になるのか。
といった具合に、「へえ」「へえ」と新たな世界に連れて行ってくれる。

ヒツジ年なので、取り上げてみました。

テーマ : 絵本
ジャンル : 本・雑誌

【No.1418】海と時代を超えた友情『エルトゥールル号の遭難』


新年早々、すてきな絵本に会えた(左の書影)。
NPO法人国際共生促進機構の近藤圭一郎氏が企画した、1890年の紀伊大島に始まるトルコと日本の強い絆物語。記録文献を参考に、寮美千子さんが創作したお話である。
(「共生」や「絆」という表現を好まない人も、その中身に案内するための単なる記号だと受け止めてほしいもの)。

大日本帝国陸軍中将であった皇族・小松宮彰仁親王が、軍事視察の帰途イスタンブールに立ち寄った1887年、たいそう厚いもてなしをオスマン帝国に受けた。それを聞いた明治天皇がアブデュルハミトⅡ世に漆器と勲章を献呈。
オスマン帝国はその答礼のため、600人近くもの軍人を乗せた軍艦に親書と勲章を託す。
この航海には、寄港地でオスマン帝国海軍の威力を見せ、アジア各地のイスラム教徒を結束させる目的もあった。

選ばれた船は、13世紀末にオスマン帝国を興した初代オスマンⅠ世の父の名がつけられた「エルトゥールル」で、蒸気機関を備えた美しい帆船。だが、進水式から航海の機会がなかった同船は老朽化しており、長旅に不安もあった。

開通20年のスエズ運河で座礁、ボンベイからセイロンへ向かう途中に浸水、サイゴン出航ののち嵐に巻き込まれ、という具合に、修理のための長い寄港、過重な経費等、思わぬ困難を抱えながら、艦は出航より11ヶ月後にようよう横浜に到着する。

鹿鳴館に宿泊し、軍楽隊で民間人と交流する乗組員らはちょっとしたブームを巻き起こすものの、帰国への出航を控えた矢先、コレラに見舞われる。何人かの犠牲者を出し、遺体埋葬で文化間トラブルが生じ、ようやく出航が可能になった時には、すでに台風シーズンが到来していた。
本国からの要請もあり、やむなく出航したエルトゥールル号を待ち受けていたのは暴風雨。
紀伊半島先端の大島、樫野崎の灯台を視野に入れながら、艦は遭難する。
木造船は岩礁で砕け、乗組員の多くが波に呑まれ、戻らぬ人となった。

しかし、何とか岸に泳ぎ着いた者、岸に打ち上げられた者たちが、灯台守や地元の漁師、村人たちによって庇護、救出される。重傷を負った者もいたが、村人たちの素早い判断、親身の看護が69人の生存を可能にしたのである。
貧しい漁村であったが村人たちは非常食を供出し、集められるだけの着物をかき集め、裸同然だった乗組員に着せて、神戸港へと送り出す。

ここからの後日談が、海と共に生きてきた人たちの歴史を、さらに神話のようにする。
村人たちは遺体を捜索し、発見した亡骸を埋葬し続けた。打ち上げられた遺品はオスマン帝国海軍へ送還されていったという。墓地は祖先のものと同様手入れされ、守られ、それはいつしか現大島小学校の子どもたちの仕事となり、戦時中を経て今に至る。

物語は、エルトゥールル号に宿った霊的存在の一人称として語られる。

ロシアのバルチック艦隊を破ったので親日、私が30年前、イスタンブールを旅した折には島田陽子が出演したドラマ「将軍」が人気で、日本の映像他の評判がいいから親日かと思っていたが、実はトルコ人の親日ぶりは、この一件によるのだという。
イラン-イラク戦争中、フセインがイラン上空を飛ぶ飛行機撃墜の宣言を出した折、イランから出立できなくなった200人の日本人を救うため、在イランのトルコ大使がトルコから救援機を出すことを申し出た。
「エルトゥールル号の遭難時のご恩返し」というのが彼の弁であった。

密度高い話ゆえ、絵本と言っても絵の部分は限られている。大判の童話に挿し絵がついた風のバランスとなっている。
絵はスクラッチ・イラストレーションで独自の世界を切り拓いている磯良一さんの手になる。小さな磁石の捨てカットにも、意味と情感を込めた丁寧な仕事ぶり。見入って飽きない象徴性の高いモチーフと色彩である。

これまで何回か、高校生が読書会を行って、その成果をボードにまとめる「どくしょ甲子園」の予備審査を手伝わせてもらっているが、そういうところでも大いに読まれてほしい一冊だ。

『海の翼』の方は、同じ出来事を扱った一般書。

テーマ : 絵本
ジャンル : 本・雑誌

プロフィール

Author:中村びわ
2004年から2011年まで書いてきた
「本のシャワーにさらす肌」
http://biwa.blogtribe.org/を、
こちらに引き継ぎます。

最近の記事
月別アーカイブ
カテゴリー
最近のコメント
最近のトラックバック
RSSフィード
ブログ内検索
リンク
QRコード
QRコード
FC2カウンター
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。